遅ればせながらNick Hartの2ndアルバムを聴いたら傑作でした。

 

Nick Hart / Nick Hart Sings Nine English Folk Songs(Roebuck Records, 2019)
 
もう直ぐ3rdアルバムがリリースされるニック・ハートは、ロンドンを拠点に活躍するニック・ジョーンズ・タイプのフォーク・シンガー。遅ればせながら2019年にリリースされた2ndアルバムを聴いてみたところ、これが頗る素晴らしい。今年出会ったトラッド・シンガーの中でも1、2を争う逸材ではないでしょうか。いかにもイングランドらしい端正なトラッド・シンギングがデイヴ・バーランドやマーティン・ウィンダム・リードなどのリヴァイヴァリストたちを想わせ、すっかり魅了されてしまいました。『Nick Hart Sings Eight English Folk Songs』と題された1stも2017年にリリースされていますが、CDは既にソールド・アウト。已む無くデータ配信の音源を聴いている次第です。
 
ケンブリッジシャーのモリス・ダンサーの一家に生まれたニックは、幼い頃よく父親のメローディオン・ケースの上に座って過ごし、初めは関心の無かったイングリッシュ・ダンス・ミュージックにも成長するとともに興味が湧き、メローディオンをマスターするまでに至ったとのこと。現在ではソロ活動の傍らトム・ムーアやジョン・ディッパーなど仲間たちとケイリー・バンドを組み、メローディオン奏者兼コーラーとしても活躍しています。
 
さて、『Nick Hart Sings Nine English Folk Songs』ですが、タイトルどおりニックがイングランドは主に出身地のイースト・アングリアに伝わるトラッド9曲をギターで弾き語っています。元々無伴奏のシンギングからスタートしたニックのつま弾くギターはいたってシンプル。もちろんシンプルと云ってもテクニック的に簡単という意味ではなく、必要最小限に削ぎ落されたギターの音色が滋味溢れるニックの歌声との間にある種の緊張感を生み、バラッドの持つ物語性にリアリティを与えています。淡々と唄われているにもかかわらず、あたかも映画のワン・シーンを見るかのようにドラマチックに響くのはそのせいでしょう。特にノーフォークのウォルター・パードンの歌唱をお手本にした〈A Ship to Old England Came〉はナポレオン戦争期の海戦を生き延びたキャビン・ボーイについて唄ったバラッドで、ピーター・ベラミーやマーティン・カーシーなどベテランのシンガーにも取り上げられていますが、ニックのシンギングはどの先達のものよりも抜きんでているように思われます。
 
プロデュースはトム・ムーア。シェフィールドを拠点に活躍するムーア・モス・ラター(Moore Moss Rutter)のメンバーで、今日のイングランドを代表する名フィドラーの内の一人です。本作でも数曲でヴィオラを弾いてニックの歌声に華を添えています。また、〈ロード・ランダル〉としてよく知られる〈John Riley〉ではドミニー・フーパーとの素晴らしいデュエットも聴け、11月の3rdアルバム『Nick Hart Sings Ten English Folk Songs』のリリースも待ちどおしい傑作2ndです。
 
Tracks (カッコ内の人名はライナーにクレジットされたソース・シンガー)
01. The Rakish Young Fellow (Tradtional, Walter Pardon)
02. Bold Keeper (Tradtional, Harry and Danny Brazil)
03. Georgie (Tradtional, Mary Humphrey)
04. The Molecatcher (Tradtional, Peter Bellamy)
05. The Lakes of Cold Finn (Tradtional, George Ling)
06. A Ship to Old England Came (Tradtional, Walter Pardon)
07. John Riley (Tradtional)
08. Riding Down to Portsmouth (Tradtional, Mary Ann Haynes)
09. The Two Sisters (Tradtional, Danny Brazil)
 

ご来店の際にリクエストしてください。

 

 

Walter Pardonの〈A Ship to Old England Came〉が聴けるLeader盤と他のソース音源が聴ける諸々のCD

Shirley Collins / Heart's Ease(2020)

 

2016年の『Lodestar』に続くシャーリー・コリンズの復活第2作が届きました。プロデュースのイアン・キアリー(元Oysterband)や脇を固めるアルビオン・モリスのジョン・ウォッチャム、ラトル・オン・ザ・ストーヴパイプのデイヴ・アーサーとピート・クーパーなどのバックの面子はほぼ変わりありませんが、今回はスタジオ録音。リラックスできるようにとシャーリーの自宅で録音された「暫定的」な前作に比べ、シャーリーの復活劇は本格的に幕が開けられたようです。

 

ジョージ・メイナード、ボブ・コッパー、ハリー・アプトンなどサセックスの先人達のトラッド曲が並ぶなか、元夫オースティン・ジョン・マーシャルの詞にトラッド曲を付け唄われた〈Whitsun Dance〉と〈Sweet Greens and Blues〉の収録がとりわけ印象的です。オースティン・ジョンはハッチングスと出会う前のシャーリーの夫君で、デイヴィー・グレアムとの屈指の名盤『Folk Roots, New Routes』を企画したり、『The Sweet Primeroses』『Anthems in Eden』『Love, Death and the Lady』などこの時期の一連のアルバムをプロデュースし、シャーリー・コリンズを語るうえで欠かせない人物です。

 

さて〈Whitsun Dance〉ですが、ふだんは男性が踊るモリス・ダンスを第一次世界大戦後のイングランドのいくつかの町や村では戦争で夫や恋人を失った女性たちが踊り、モリス・ダンスの伝統を守ったというもの。かつてシャーリーはオースティン・ジョンの詞をボブ・コッパーの〈The Week Before Easter〉のメロディーに乗せ『Anthems in Eden』で唄いました。〈Staines Morris〉が被さるように続けて収録されたオリジナル盤の唐突さには今でも驚かされますが、今回は〈Orange in Bloom〉のモリス・チューンがこの曲に続き、アルビオン・モリスのジョン・ウォッチャムが素晴らしいコンサーティーナを聴かせてくれます。

 

〈Sweet Greens and Blues〉は1960年代に自宅で録ったデイヴィー・グレアムとのセッション・テープが発見され、そのテープに収録されていた曲で、オースティン・ジョンはシャーリーとの2人の子ども、ポリーとロバートのいる家庭について唄っています。本アルバムへの収録はロバートの勧めで行われ、「和解」であり「癒し」であるとシャーリーはあるインタビューで語っています。曲の前後に配置されたインスト曲はシャーリーとは縁の深いアラン・ローマックス・アーカイヴでキュレイターを務めるギタリスト、ネイサン・サルスバーグが用意した〈Sweet Blues and Greens〉。ジェイムス・テイラーを想わせるネイサンのギターが"Remembering Austin John Marshall (1937-2013)"と記されたアルバムに華を添えています。

 

また〈Locked in Ice〉も聴きどころの1つです。北極海域で「幽霊船」になったベイチモ号を唄った曲で、作者のBuz Collinsはドリー・コリンズの息子さん、シャーリーの甥にあたります。フェルサイドにアルバム『Water and Rain』を残し、2002年に亡くなったようで、スタン・ロジャースを想わせるSSWです。シャーリーはオリジナルより幾分テンポを落とし、時代設定も1世紀遡り、ズバリ〈The Baychimo〉であった曲名を〈Locked in Ice〉とし唄っていますが、〈Locked in Ice〉は35年間凍結されていたシャーリーの歌声のメタファーでしょうか。

 

他に初めてレコーディングに参加した『Folk Song Today』で唄った〈Dabbling in the Dew〉の再録音や1959年アラン・ローマックスに同行した"サザン・ジャーニー"で出会ったアパラチアン・トラッドなど生涯を振り返るような選曲。齢84歳、この存在感はディランに勝るとも劣りません。

 

Tracks Side 1

01. The Merry Golden Tree (trad. arr. Collins, Kearey)

02. Rolling in the Dew (trad. arr. Collins, Kearey)

03. Christmas Song (trad. arr. Bob Copper)

04. Locked in Ice (Buz Collins)

05. Wondrous Love (trad. arr. Collins, Kearey)

06. Barbara Allen (trad. arr. Collins, Kearey)

Side 2

01. Canadee-I-O (trad. arr. Collins, Barnes)

02. Sweet Greens and Blues (words Marshall, tune trad. arr. Collins, Kearey)

03. Tell Me True (trad. arr. Collins, Kearey)

04. Whitsun Dance (words Marshall, tune A Week Before Easter, trad. arr. Copper)

05. Orange in Bloom (trad. arr. IKearey)

06. Crowlink (Ossian Brown, Matthew Shaw)

 

Produced by Ian Kearey; Recorded at Metway Studios, Brighton; Mixed by Al Scott

 

Shirley Collins, vocals

Davy Graham, guitar [bonus single]

 

The Lodestar Band

Ian Kearey, Pete Cooper, Dave Arthur, Ossian Brown, Pip Barnes, John Watcham, Glen Redman

 

with special guests

Nathan Salsburg, Matthew Shaw

The Unthanks / Live and Unaccompanied : Diversions Vol. 5(2020)

 

ジ・アンサンクスはイングランドは北東端のノーサンバーランドでリヴァイヴァリストの両親に育てられたレイチェルとベッキーのアンサンク姉妹を中心とした5人組で、既に6枚のオリジナル・アルバムと4枚のDiversions Seriesをリリースしています。そのディヴァージョンズ・シリーズ(寄り道シリーズ?)でロバート・ワイアットやアントニー&ザ・ジョンソンズ、 モリー・ ドレイク(ニックの母親です)の楽曲を取り上げ彼らに敬意を表したり、スティングのアルバムに参加するなど、フォーク・ミュージックのカテゴリーに収まらない活躍ぶりです。 

 

本作はディヴァージョンズ・シリーズの5作目で、この5月にリリースされた最新作。いつもは姉妹にプロデューサーでピアニストのエイドリアン・マクナリー、ベースとギターのクリス・プライス、ヴァイオリンのニオファ・キーガンを加えた5人でライブを行うアンサンクスですが、 「Unaccompanied, As We Are」と名付けられた昨年の春のツアーは少し異なっていました。姉妹にニオファを加えた女声トリオのみによる無伴奏ツアーで、英国とアイルランドの31か所を巡ったなかから選りすぐりの13曲が収められています。 

 

13曲中トラッドは3曲、他にコニー・コンヴァース、デイヴ・ドッヅ、ピーター・ベラミー、ジョニー・ハンドル、モリー・ドレイク、リチャード・ドウソン、グレイム・マイルズなど渋めのソング・ライターの楽曲が並ぶさまは流石アンサンクスと云ったところです。 

 

なかでも〈Magpie〉は秀逸。もともとロック・バンド、レッド・ジャスパーのデイヴ・ドッヅが書いた楽曲で、Jim Mageean & Johnny Collinsが1982年の『Live at Herga!』で取り上げていました。Jim Mageean & Johnny Collinsのジムは姉妹の父親ジョージ・アンサンクとは地元ニューカッスルで伝説的なフォーク・グループ、キーラーズの仲間同士。またニューカッスル大学でフォーク・ミュージックの学位コースを持っていたジムはアンサンクスがトラッドを唄ううえで公私ともに大きな存在であった筈です。 

 

そんなジムがかつて唄った「一羽なら悲しみ、二羽なら喜び。三羽なら娘、四羽なら息子。五羽なら銀で、六羽なら金。七羽ならそれは明かされたことのない秘密」と云う民間に伝わる数え歌をリフレインに持ったこのプログレ・ナンバーを、レイチェルとベッキー、ニオファはミステリアスながらも息の合った歌声でラルとマイクのウォータースン兄妹の〈Fine Horseman〉や〈The Scarecrow〉クラスの準トラッドに仕立てています。 

 

Special Film Editionということでアルバムにはツアーのオン、オフ・ステージを捉えた27分間のドキュメンタリー『As We Go』を収録したDVDが付いています。そのなかでレイチェル、ベッキー、ニオファはオープニング・アクトのティム・ダリングを加えアンコールで唄った〈Love Is Like A River〉でソウルフルなゴスペル・コーラスを披露。色んなことができる人たちなのですね。 

 

A1. One By One – Connie Converse 

A2. Magpie – Dave Dodds 

A3. I'm Weary of Lying Alone – Trad.  

A4. Geordie Wedding Set:  – Trad. (We'll Aal Be Wed in Our Auld Claiths / Hi Canny Man) 

A5. Griesly Bride – John Manifold, Tom Campbell 

A6. Bees (Honeybee – Connie Converse / The Bee-Boy's Song – Kipling, Bellamy) 

 

B1. Guard Yer Man Weel – Johnny Handle, The Unthanks 

B2. Poor Mum – Molly Drake 

B3. Where've Yer Bin Dick – Lea Nicholson 

B4. We Picked Apples in a Graveyard Freshly Mowed – Richard Dawson 

B5. Bread and Roses – James Oppenheim, Mimi Fariña 

B6. Caught in a Storm – Graeme Miles 

B7. Farewell Shanty – Trad. 

 

ご来店の際にリクエストしてください。

 

久々に聴いたJim Mageean & Johnny Collinsの『Live at Herga!』
〈Magpie〉はB面5曲目で、A面ではスタン・ロジャースの〈Northwest Passage〉を客席と大コーラスしています。

 

ルーサーとストロベリー・ムーン姉妹のスワンプの極み Luther Dickinson and Sisters of the Strawberry Moon / Solstice (2019)

 
ノース・ミシシッピィ・オールスターズのフロントマンであるルーサー・ディッキンソンは、バンドやソロ活動のほかに様々なプロジェクトで活躍している。例えばメンフィスのブルース・シンガー、アルヴィン・ヤングブラッド・ハートや昨年活動を再開したスクイーレル・ナット・ジッパーズのジンボ・メイサスと作ったSouth Memphis String Band、ルーサー以外は女性ばかりのフォーク・バンドThe Wandering、亡き父追悼のためのThe Sons Of Mudboyなどなど。この他にもジョン・ハイアットやジム・ローダーデイルらとのコラボレーションなど八面六臂の活躍である。

それはちょうど父親のジム・ディッキンソンがメンフィスやマイアミなどでプロデューサー、スタジオ・ミュージシャン業で活躍するかたわらMud Boy & The Neutrons、Raisins In The Sunなどのバンドに参加したり、自らのフィールド・レコーディングと称しデルタ・エクスペリメンタル・プロジェクト・シリーズをコンパイルして南部の伝統音楽にスポットライトをあてたのとよく似ている。

Luther Dickinson and Sisters of the Strawberry Moonは、そんなルーサー・ディッキンソンの新しいプロジェクトで、『Solstice』はその1stアルバムだ。ここでルーサーは、アリソン・ラッセル(バーズ・オブ・シカゴ)、シャーデ・トーマス、エイミー・ラヴェル、エイミー・ヘルム、コモ・ママスの5組8人の魅力的な声を持つ女性陣にヴォーカルを任せ、自身はプロデュースとギターに専念し裏方に徹している。

アルバムの口火を切るバーズ・オブ・シカゴは、アリソン・ラッセルとJTネロことジェレミー・リンゼイのおしどりデュオ。2ndアルバムの『リアル・ミッドナイト』がジョー・ヘンリーによってプロデュースされたことにより国内盤もリリースされ広く知られるようになったバンドだ。3作目の『ラブ・イン・ウォータイム』をルーサーがプロデュースした関係でこのプロジェクトに参加したのだろう。1曲目の「Superlover」はそのアルバムに収録された曲の再演だ。

シャーデ・トーマスとエイミー・ラヴェルは、ルーサーのプロジェクトのひとつThe Wanderingのメンバー。ヴォーカルだけでなくルーサーのソロ・アルバムではちょいちょい顔を出しているお馴染みのリズム・セクションでもある。ドラムスのシャーデ・トーマスは、ヒル・カントリーのリジェンド、オサー・ターナーの孫娘で、彼女のファイフ&ドラムはプリミティブな南部の情感とグルーヴを醸し、遥かアフリカへと遡っていくようだ。

アップライト・ベースのエイミー・ラヴェルは、甘く掠れたソプラノが魅力的なシンガーで、2ndアルバムの『Anchors & Anvils』はジム・ディッキンソンが、4枚目の『Runaway's Diary』はルーサーがプロデュースをしている。そして最新作の『Hallelujah I'm A Dreamer』は夫であるギタリストのウィル・セクストンとのデュオ・アルバムで、本プロジェクトではエイミーがヴォーカルをとるトラックにはウィルも参加してデュオ・アルバムの収録曲を再演している。

もう一人のエイミー、エイミー・ヘルムは、もちろんリヴォン・ヘルムの愛娘。彼女の2ndアルバムの『This Too Shall Light』にバーズ・オブ・シカゴのアリソン・ラッセルとJTネロがバック・ヴォーカルで起用されたことから繋がりができたのだろう。エイミーの歌う「Like A Songbird That Has Fallen」は映画『コールド マウンテン』のためにボブ・ニューワースとT・ボーン・バーネットが書いた楽曲で、サントラ盤ではリール・タイム・トラヴェラーズが歌っていたが、リール・タイム・トラヴェラーズのヴォーカリスト、マーサ・スキャンランは自身の1stアルバム『West Was Burning』をエイミーの招きでリヴォン・ヘルムのザ・バーンで録音している。

エイミーのもう一曲は「Sing To Me」で、「歌って あなたの声を聴かせて」「歌って あなたのドラムを叩いて」とまるで亡き父リヴォンに歌いかけているようだが、アメリカン・ロックの最高峰ザ・バンドの名ドラマーの愛娘が、メンフィスの伝説的プロデューサーの息子の主宰するプロジェクトで歌い、さらにはヒル・カントリーの長老的ブルースマンの孫娘がバックアップするというシチュエーションには感慨深いものがある。連綿と続く南部の音楽的遺産が世代を超えて引き継がれてゆく過程を垣間見たような気がする。

アルバムのA面、B面とも最後はコモ・ママスだ。アンジェラ・テイラー、デラ・ダニエルス、エスター・メイ・ウィルバーンからなるミシシッピ州コモ出身のゴスペル・トリオは、2013年全編アカペラの『Get An Understanding』でデビューを飾っているが、その何人も寄せ付けないド迫力のコーラスでアルバムを締めくくっている。

蛇足ながらアルバムは基本的には全編ジム・ディッキンソンのゼブラ・ランチ・スタジオでライブ・レコーディングされているが、曲によってはフィドルやオルガンをダビングしている。なかでも「Sing To Me」と「Til It's Gone」でのハモンドB3は秀逸だ。あのチャールズ・ホッジスがロイヤル・スタジオで録っている。

Luther Dickinson and Sisters of the Strawberry Moon / Solstice
Track List
a01. Superlover featuring Birds of Chicago
a02. Fly With Me featuring Sharde Thomas
a03. Hallelujah (I'm a Dreamer) featuring Amy LaVere
a04. Like A Songbird That Has Fallen featuring Amy Helm
a05. Kathy featuring Birds of Chicago
a06. Hold To His Hand featuring The Como Mamas

b01. The Night Is Still Young featuring Amy LaVere
b02. Sing To Me featuring Amy Helm
b03. We Made It featuring Sharde Thomas
b04. Cricket (At Night I Can Fly) featuring Amy LaVere
b05. Til It's Gone featuring Birds of Chicago
b06. Search Me featuring The Como Mamas
 

トピックやトレイラーに誘うLisa O'Neillの『Heard A Long Gone Song』 (2018)

 

久々にMM誌の輸入盤紹介ページを見て買ってみました。ジャケ写のパンキッシュな佇まいに胸がざわつき、1曲目の無伴奏シンギングに心が鷲づかみされます。

ライザ・オニールは、アイルランドはキャバン州出身、現在はダブリンで活躍するフォーク・シンガー。これまでの3作は自主制作盤でしたが、この4作目はラフトレード傘下のRiver Lea Recordingsからリリースされています。

トラッド4曲、自作曲3曲、自作詩にトラッド曲を付けたもの1曲、ポーグス・カヴァー曲1曲の全9曲が収録されていますが、圧巻はB面1曲目のトラッド「The Factory Girl」。ライザはここでダブリンのトラッド・バンドLankumのラディー・ピート(Radie Peat)と硬質かつパワフルな無伴奏デュエットを聴かせてくれます。

ライザとラディーの「The Factory Girl」は、ラディーのアイデアによりマーガレット・バリーのバージョンとネリー・ウェルドンのバージョンを組み合わせたものとのこと。凄いです。リアム・ウェルドンの『Dark Horse On The Wind』(1976) を髣髴させます。ちなみにネリー・ウェルドンはリアム・ウェルドンの奥さんです。

自作曲ではムッソリーニ暗殺を企てたアイルランド女性を唄った「Violet Gibson」が秀逸。まるで襲撃現場の映像を見ているようで、ストーリーテラーとしてのライザ・オニールの面目躍如といったところです。

また「A Year Shy of Three」は、アイルランドの画家フレデリック・ウィリアム・バートンの描いた「The Aran Fisherman's Drowned Child」にインスパイアされて書いた自作詩をコーマック・ベグレイ(Cormac Begley)がコンセルティーナで奏でる美しいスロー・エア「The May Morning Dew」のメロディで唄ったもの。ベグレイの卓越したコンセルティーナはアルバム全体の随所で聴くことができ、いい味を醸しています。

アルバムはシェイン・マガウアンの「Lullaby of London」で幕を閉じますが、抜群の選曲です。ポーグスの3rd『堕ちた天使』で名曲「ニューヨークの夢」と肩を並べ収録されていた、これも名曲です。アルバム・タイトルの『Heard A Long Gone Song』はこの曲の一節を引用したものです。

マーガレット・バリーやネリー・ウェルドンをお手本にしたというライザの硬質なシンギングがトピックやトレイラーの世界に誘ってくれる名盤です。

Track List
A1. The Galway Shawl (Trad.)
A2. Along The North Strand (Trad.)
A3. Blackbird (Written by O'Neill)
A4. The Lass of Aughrim (Trad.)
A5. Violet Gibson (Written by O'Neill)

B1. The Factory Girl (Trad.)
B2. Rock The Machine (Written by O'Neill)
B3. A Year Shy of Three (Words by O'Neill,Musical Arrangement Trad. )
B4. Lullaby of London (Shane MacGowan)

Musicians
Cormac Begley - Concertinas
Christophe Capewell - Fiddle and Harmonium
Libby McCrohan - Bouzouki
Lisa O’Neill - Vocals, Banjo and Guitars
Radie Peat(Lankum) - Vocal on The Factory Girl

Colin Meloy / Colin Meloy Sings Trad. Arr. Shirley Collins

 

2017年のオファ・レックス『The Queen of Hearts』で見事にオリヴィア・チェイニーのアルビオン・バンドになったディセンバリスツですが、フロントマンのコリン・メロイは、10年以上も遡る2006年にシャーリー・コリンズのトリビュートEP『Colin Meloy Sings Trad. Arr. Shirley Collins』を自主制作していました。
 
このEPでコリンは、シャーリーの初期のレパートリーから「Dance To Your Daddy」「Charlie」「Barbara Allen」「Cherry Tree Carol」「Turpin Hero」「I Drew My Ship」の6曲を歌っています。
 
このうち1曲目の「Dance To Your Daddy」を除いた5曲は、シャーリーが1958年に録音し、2枚のデビュー・アルバム『Sweet England』(英Argo)と『False True Lovers』(米Folkways)に収録されているものです。ちなみにこの時のセッションは、ピーター・ケネディとアラン・ローマックスによってプロデュースされ、ジョン・ハステッド(banjo)、ラルフ・リンズラー(g)、ガイ・キャラワン(g)がバックを務めていました。
 
EPは、全曲コリン自身によってホーム・レコーディングされていますが、ジャコバイト・ソングの「Charlie」のみディセンバリスツのマルチプレイヤー、クリス・ファンクと同じくレコード・ジャケットを手掛けるイラストレーター、カーソン・エリスが、それぞれバンジョーとボーカルでバック・アップをしています。
 
また、チャイルド・バラッドの「Barbara Allen」は『Colin Meloy Sings Live!』ではギターの弾き語りで歌われていましたが、ここでは迫力のあるエレクトリック・トラッドで聴くことができます。そして、最後の「I Drew My Ship」はアカペラで。
 
コリン・メロイのシャーリー・コリンズに対するリスペクトがひしひしと伝わる一枚です。
 

 

 

二つの「ホリゾンタル(I Just Want To Be Horizontal)」

 
「ホリゾンタル」という楽曲があります。
初めて聴いたのは80年代の初めにカナダのアコースティック・スイング・グループ、Short Turnの1stアルバム『Short Turn』(1977)のB面でした。
オリジナル曲やジェシ・ウィンチェスターのLaisse Les Bons Temps Rouler、キンクスのSunny Afternoonなどに混じって歌われていた「ホリゾンタル」は、女性メンバーであるシャロン・キーツのそこはかとなく漂う品ある倦怠感が何とも言えず、一遍で好きになり何度も繰り返し聴くようになりました。
しかしインターネットなどの無い時代、作者のH.DAVID L.RICCIのクレジットだけでは辿りようもなくオリジナル曲ではないにしろ、周辺のSSWによる楽曲と思い込み、フェイヴァリット・ソングの一つとしてレコード棚にしまわれていました。
 
ところが先日、お客様のリクエストでOriginal Sloth Bandの1st『Whoopee After Midnight』をかけたところ、あの「ホリゾンタル」が聴こえてくるではありませんか。
Original Sloth Bandは既に1973年の時点で「ホリゾンタル」を取り上げていたのでした。Short Turnは先輩格のOriginal Sloth Bandのヴァージョンを聴いていたとも考えられます。どうしてもOriginal Sloth Bandを聴くときには2枚目の『Hustlin' & Bustlin'』をかけがちで、長い間不覚にも気づけませんでした。
 
早速、ライナーノーツを見ると「Probably the only other version of "I Just Want To Be Horizontal" is by Pat Flowers and his Rhythm.」とあります。今の時代、この先を辿って行くのは容易いことです。
 
パット・フラワーズは、1940年代に活躍したアメリカはデトロイト出身のジャズ・ピアニスト兼シンガーでした。ニューヨーク時代にはファッツ・ウォーラーと頻繁にコラボし、ウォーラーの死後はその後継者として認められていたようです。なので彼のレパートリーの中にはAin't Misbehavin'やHoneysuckle Roseもしっかりと含まれています。
件の「ホリゾンタル」は1946年7月15日ニューヨークでPat Flowers & His Rhythmによって録音され、ボーカルはパット本人ではなく、Bunky Pendeltonが歌っています。定かではありませんが楽団の一員でしょう、女性ボーカリストです。しかも作者のH.DAVIDは、後にバート・バカラックとコンビを組むあのハル・デイヴィッドでした。
 
たぶんシャロン・キーツは、Bunky Pendeltonのボーカルをイメージして録音したと思われます。Short Turnのデビュー作、ここ最近カフェトラモナのヘビーローテーションです
 

安宅浩司シングス高田渡

 
よしだよしこさんの新作『今日一人の友だちを見送って』は、高田渡さんの「鉱夫の祈り」で終わります。マウンテン・ダルシマーで弾き語られるよしこさんの「鉱夫の祈り」は数ある高田渡カヴァーのなかでも指折りの一曲と云っていいでしょう。
 
かつて、渡さんのベルウッド三部作『ごあいさつ』『系図』『石』をハンバートハンバート、おおはた雄一、ラリーパパなどの若手ミュージシャンにより、曲順も含めそっくりそのままカヴァーするというトリビュート・アルバムがミディクリエイティブからリリースされました。
 
その中で、安宅浩司さんも高田渡曲を数曲カヴァーしています。『ごあいさつ』では「ブルース」をミシシッピ・ジョン・ハートを髣髴させるフィンガーピッキングで、『系図』では「ミミズのうた」をギター、バンジョーなどをひとり多重録音し、歌っています。後半に聴けるエレクトリック・スライドは、実にカッコよく、まさにマルチ弦楽器奏者の面目躍如といったところです。
そして、極めつけは『石』での「火吹竹」です。オリジナルは中川イサトさんの粗削りなスライド・ギターが印象的な名唱ですが、ここで安宅さんはピアノをバックにスライド・ギターを弾きながらタイトル曲「石」と並ぶ名曲に挑んでいます。安宅さんの飄々とした歌声は、オリジナルとはまた別の深い味わいで、トリビュート三部作の大トリにふさわしい見事な出来栄えと思います。これも指折りの高田渡カヴァーでしょう。

「南部在郷紳士録 サザンランド・スワンパーズ」

 
手元に「南部在郷紳士録 サザンランド・スワンパーズ」というブラックホークの松平維秋さんがお書きになった文章があります。これは、1973年ころにブラックホークで組まれていた「スワンプ特集」に合わせて店内で配布されたフリーペーパーを、2014年にCD通販店タムボリンの船津さんが複製発行したものです。
 
明日7月23日は、「南部在郷紳士録 サザンランド・スワンパーズ」でも紹介されているトニー・ジョー・ホワイトの75回目の誕生日です。そしてカフェトラモナも開店からやっと1か月が経ちました。そこで明日は、「南部在郷紳士録 サザンランド・スワンパーズ」をガイドに、かつて「スワンプ」と呼ばれたアメリカ南部の若しくは南部を志向する音楽を聴きたいと思います。
 
さて、「南部在郷紳士録 サザンランド・スワンパーズ」は、「リバプールやサンフランシスコで成長した"新しいロック"は、大人になった今、記憶の彼方の"ふるさと"をたずね始めました。それは、昔からよい音楽なら持っていた"物語る具体性"が、ロックから失われそうになったからです。そこで心あるミュージシャン達は、人々の生活の内に住むことのできた過去の音楽に、自分の表現を学ぼうとしたのです。」という松平さんらしい美しい書き出しで始まります。
 
さあ、私たちも聴き始めましょう。

 

 
Delaney & Bonnie / The Original Delaney & Bonnie & Friends
Rita Coolidge / Nice Feelin'
Alex Taylor / With Friends and Neighbors
Richard Supa / Homespun
Don Nix / In God We Trust
Jeanie Greene / Mary Called Jeanie Greene
The Alabama State Troupers / Road Show

 

 
Tony Joe White / Homemade Ice Cream
Doug Kershaw / Doug Kershaw
Link Wray / Link Wray
Jesse Ed Davis / Ululu
Roger Tillison / Roger Tillison's Album
Marc Benno / Ambush
Ry Cooder / Ry Cooder

 

Christopher Kearney / Christopher Kearney
Jesse Frederick / Jesse Frederick
Jackie Lomax / Three
Dan Cassidy / Dan Cassidy
Pamela Polland / Pamela Polland
 
お気づきかと思いますが、「南部在郷紳士録 サザンランド・スワンパーズ」には後にスワンプの名盤と語られるボズ・スキャッグスの69年作『Boz Scaggs』が触れられていません。これは件の名盤がブラックホークのコレクションに加わるのが74年の4月だからです。この時、松平さんは「マッスル・ショールズを志向した先駆的アルバムで出来も素晴しく、69年とは思えません。最新作のSlow Dancerに至る期間は、いわゆるボズ・スキャッグス愛好家はこのアルバムの幻をみつづけて来たのではないかと思える程です。」と褒めたたえています。

 

 
ところで、メンフィスの大御所ジム・ディッキンソンについては「ライ・クーダーの二作目をプロデュースしたジム・ディッキンスンは自分のアルバムを発表しましたが、これは"プロデューサー根性"に自ら溺れて、スワンプの中に"ドラマ"を持ち込むことに失敗しています。」と辛口の評価です。
 
しかし、その後のディッキンソンのストーズやディラン、アレックス・チルトンやチャック・プロフィットなどとの八面六臂の活躍ぶりはご存知の通りです。そして、シド・セルヴィッジや息子のコディとルーサーのNorth Mississippi Allstarsとの世代を超えたコラボには目を見張るものがあります。特に、ルーサーがThe Sons of Mudboy名義でリリースしたジム・ディッキンソンの追悼アルバム『Onward And Upward』は、ジム・ディッキンソンの遺志が次の世代に引き継がれ、マッドボーイの息子たちの奏でるスワンプに"物語る具体性"がはっきりと窺がえる名作といえるでしょう。
 
そんなジム・ディッキンソンの11回目の命日(8月15日)ももう間近です。最後に、哀悼の意味を込めて松平さんが聴くことのできなかったその後のジム・ディッキンソンの作品群を聴いて終わりにしたいと思います。
 
 
Boz Scaggs / Boz Scaggs
Jim Dickinson / Dixie Fried
Jim Dickinson / A Thousand Footprints in the Sand
Mudboy and the Neutrons / Known Felons in Drag
Sid Selvidge / The Cold of The Morning
Luther Dickinson and the Sons of Mudboy / Onward And Upward

Jalopy Records 7 Inch Series

 

いつもはレスポンスの悪い(半年も待たされたこともあります。)ニューヨークはブルックリンのJalopy Recordsから今回は注文から2週間程度でレコードが送られてきました。届いたのは7 Inch Seriesの706〜709の4枚。これでこのシリーズ、現在のラインナップが顔を揃えました。

 

Jalopy Recordsは、米オレゴンのMississippi RecordsやサンフランシスコのTompkins Square Recordsと並んでカフェトラモナが最も信頼しているレーベルのひとつで、フォーク、ブルース、オールドタイムなど現代のアメリカン・ルーツ・ミュージックの若きリヴァイヴァリストたちの音源を主にアナログ盤とDLでリリースしています。

 

例えば、映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』のサントラ盤でニュー・ロスト・シティ・ランブラーズのジョン・コーエンと共演したダウンヒル・ストラグラーズのフルアルバム『Lone Prairie』、ジム・クウェスキンとの共演アルバムがあり、一緒に来日したこともあるサロマ・ウィルソンの新ユニットThe Four o'clock Flowersの唯一のアルバム『The Four o'clock Flowers』などをリリースしています。この他、クラレンス・アシュレイの1963年10月ガーデス・フォーク・シティでのライヴ・アルバム『Live and In Person』などもある頼もしいレーベルです。

 

7 Inch Seriesは、クラウドファンディングにより資金調達を行い、4週ごとに新譜をリリースしていく企画で、14組がリストアップされており、既に9枚の7インチレコードがリリースされています。今後はカロライナ・チョコレート・ドロップスのハビー・ジェンキンスなども予定されています。

現在のラインナップは、

 

Jackson Lynch 7 Inch Series 701

Willy Gantrim 7 Inch Series 702

Pat Conte 7 Inch Series 703

Walker Shepard 7 Inch Series 704

Clifton Hicks 7 Inch Series 705
Meredith Axelrod Jalopy 7 Inch Series  706

Noah Harley Jalopy 7 Inch Series 707
Papa Vega's Dream Shadows Orchestra 7 Inch Series 708
Eli Smith 7 Inch Series 709

 

ですが、7/4、Mamie Minch & Tamar Kornがデジタルアルバムでのみリリースされました。

まだまだ、これからが楽しみな 7 Inch Seriesです。