2021.10.22 Friday
遅ればせながらNick Hartの2ndアルバムを聴いたら傑作でした。
Nick Hart / Nick Hart Sings Nine English Folk Songs(Roebuck Records, 2019)
もう直ぐ3rdアルバムがリリースされるニック・ハートは、ロンドンを拠点に活躍するニック・ジョーンズ・タイプのフォーク・シンガー。遅ればせながら2019年にリリースされた2ndアルバムを聴いてみたところ、これが頗る素晴らしい。今年出会ったトラッド・シンガーの中でも1、2を争う逸材ではないでしょうか。いかにもイングランドらしい端正なトラッド・シンギングがデイヴ・バーランドやマーティン・ウィンダム・リードなどのリヴァイヴァリストたちを想わせ、すっかり魅了されてしまいました。『Nick Hart Sings Eight English Folk Songs』と題された1stも2017年にリリースされていますが、CDは既にソールド・アウト。已む無くデータ配信の音源を聴いている次第です。
ケンブリッジシャーのモリス・ダンサーの一家に生まれたニックは、幼い頃よく父親のメローディオン・ケースの上に座って過ごし、初めは関心の無かったイングリッシュ・ダンス・ミュージックにも成長するとともに興味が湧き、メローディオンをマスターするまでに至ったとのこと。現在ではソロ活動の傍らトム・ムーアやジョン・ディッパーなど仲間たちとケイリー・バンドを組み、メローディオン奏者兼コーラーとしても活躍しています。
さて、『Nick Hart Sings Nine English Folk Songs』ですが、タイトルどおりニックがイングランドは主に出身地のイースト・アングリアに伝わるトラッド9曲をギターで弾き語っています。元々無伴奏のシンギングからスタートしたニックのつま弾くギターはいたってシンプル。もちろんシンプルと云ってもテクニック的に簡単という意味ではなく、必要最小限に削ぎ落されたギターの音色が滋味溢れるニックの歌声との間にある種の緊張感を生み、バラッドの持つ物語性にリアリティを与えています。淡々と唄われているにもかかわらず、あたかも映画のワン・シーンを見るかのようにドラマチックに響くのはそのせいでしょう。特にノーフォークのウォルター・パードンの歌唱をお手本にした〈A Ship to Old England Came〉はナポレオン戦争期の海戦を生き延びたキャビン・ボーイについて唄ったバラッドで、ピーター・ベラミーやマーティン・カーシーなどベテランのシンガーにも取り上げられていますが、ニックのシンギングはどの先達のものよりも抜きんでているように思われます。
プロデュースはトム・ムーア。シェフィールドを拠点に活躍するムーア・モス・ラター(Moore Moss Rutter)のメンバーで、今日のイングランドを代表する名フィドラーの内の一人です。本作でも数曲でヴィオラを弾いてニックの歌声に華を添えています。また、〈ロード・ランダル〉としてよく知られる〈John Riley〉ではドミニー・フーパーとの素晴らしいデュエットも聴け、11月の3rdアルバム『Nick Hart Sings Ten English Folk Songs』のリリースも待ちどおしい傑作2ndです。
Tracks (カッコ内の人名はライナーにクレジットされたソース・シンガー)
01. The Rakish Young Fellow (Tradtional, Walter Pardon)
02. Bold Keeper (Tradtional, Harry and Danny Brazil)
03. Georgie (Tradtional, Mary Humphrey)
04. The Molecatcher (Tradtional, Peter Bellamy)
05. The Lakes of Cold Finn (Tradtional, George Ling)
06. A Ship to Old England Came (Tradtional, Walter Pardon)
07. John Riley (Tradtional)
08. Riding Down to Portsmouth (Tradtional, Mary Ann Haynes)
09. The Two Sisters (Tradtional, Danny Brazil)
ご来店の際にリクエストしてください。
Walter Pardonの〈A Ship to Old England Came〉が聴けるLeader盤と他のソース音源が聴ける諸々のCD